黄昏の空港待合室 コロナ禍の探偵たち ~その1
コロナ禍だからこそ、探偵が目にする光景がある。
あれは、コロナへの緊張感がMAXだった、あるとき。
国や自治体が
「県外へ出るな、来るな、そもそも家から出るな」的に
人々に移動制限を強いていたときのことだ。
週末にもかかわらず、ほぼ無人の空港待合室。
そこに独りぽつんと座り、黄昏どきにもの想う女性の姿があった。
彼女はつい1時間ほど前まで、繁華街のシティホテルの1室で
妻子ある男性と過ごしていた。
2人は手を繋いでホテルから出てくると、路上で立ち止まり、
体がふれ合うほどに近づいて会話をした。
やがて男はタクシーを拾うと、女性を乗せて、見送った。
私たちは男の妻から「浮気相手の家を突き止めてほしい」 と依頼されており、
2人がホテルに入り出てくるまでを証拠写真に収めた後に、
女性を尾行してその住居を確認する算段だった。
彼女が小旅行用のバッグを持っていたので、駅から電車で地方へ移動するくらいは覚悟していたが、まさかタクシーが空港に着こうとは…。
※写真はイメージです
感染拡大阻止のため県外への移動が実質禁じられていたため、
本来にぎわうはずの週末夕方の空港は、利用者がほぼゼロ。
あまりにがらんとしているので、女性を観察しやすい反面、かなり離れているとはいえ逆にこちらも目立つ状況。しかもこちらは何の準備もしてなかったため、旅行者にも出張ビジネスマンにも見えない服装の「不審人物」である。
今にも女性が気づいて
「怪しい奴がいる」という目をするのではと懸念したが…。
女性はずっと、ボウっとした表情で座ったままだ。
時折、スマホに目を向けるが、何のメールも来ない様子。
しばらく遠目に彼女を見守っていると、
こちらも いろいろな想いが去来し始める。
移動を制限されている、感染の危険がある、こんな時期でも、
わざわざ飛行機で来るほど男に会いたかったのか。
どんなに情熱的な時間を過ごしたとしても、不倫は不倫。
独りになった今、空しさに包まれてしまったのだろうか。
無人の空港待合室、不倫中の女性が独り、もの想う黄昏。
同じ空間に居合わせる探偵も、独り、もの想う。
そんなコロナ禍のワンシーンである。