12月のみそぎ
娘を探してほしい、との依頼を受けた。
まだ5、6歳だったころ、もう30年ほども前に
夫婦の離婚によって引き裂かれた一人娘だ。
別れた当初は、年に何回かは会っていたし
手紙のやりとりもしていたが、
その後、それぞれに引っ越しを繰り返しているうち
完全に行方知れずになったのだ、と。
70歳前後と思われるその男性は、終始穏やかな声で
静かに、もの悲しげに、経緯を語った。
しかし、よくよく聞けば、離婚の原因はみずからの度重なる浮気。
それも、女のもとに転がり込んでいてそのまま離婚になったという。
女は異常に嫉妬深く、
娘に会うのを禁じたばかりか、手紙も禁じ、
挙句には男性に命令して「お前なんかもう邪魔だ」という
娘あての手紙を書かせ出させたというから恐ろしい。
男性がなぜそれに従ったのか疑問だが、真相は解らない。
そのまま時が過ぎ、今、男性は娘を探し出して
とにかくまず「謝りたい」と言う。
調査の結果、娘の所在は判明し、
男性からの手紙を手渡すことができた。
男性は、娘が連絡してくれると信じている。
〝 やっぱりあのときの手紙は嘘だったんだ、
お父さんは私を嫌ってなんかいなかったんだ!〟
と、喜んでくれるに違いない、と信じている。
今年もあとわずか。
誰もが1年の、いや、もしかすると人生の、
みそぎをしたくなるシーズンだ。
中には、自分勝手なみそぎもあるだろう。
降ろした心の重荷が、誰かの重荷に変わることもある。
娘はその場で封を開け、父親の短い手紙を読んだ。
そして、顔をあげないまま、
ありがとうございました
とかすれた声でつぶやきドアを閉めた。
涙を隠すためだったのかもしれない。
その後、娘が父親に連絡したかどうか。
探偵が語れるのは、ここまでである。